Mamy kissing Santa Claus...




母が私にサンタクロースについて語ったことなど無かったし
もとより私はサンタクロースの存在など信じたことは無かった
ついでに神も信じていないなどと言えば司教の名が泣くだろう。
しかしその日サンタは現れたのだった…



クリスマスイブの夜、孤児院はクリスマスパーティーで子供達のにぎやかな声に包まれていたが
宿舎は閑散として薄暗かった。
マクスウェルは暖炉の明かりで本を読んでいた。
窓からはパーティ会場の様子が見え、かすかに歓声が聞こえてくる。
いつかのクリスマスも同じような光景を目にしたことがある
父と本妻とその子供のためのパーティーを
参加を許されない自分と母は別室から眺めていた。
馬鹿馬鹿しい大体本来がキリストの誕生を祝う日だというのに
プレゼント目当てで騒ぎ立てる子供達が浅ましく映った。
いい子の所にはサンタクロースがやって来てプレゼントをくれるという
それなら自分は対象外という事だろう
神様は信じていないし何より妾の子だ

急に喧騒が耳障りなものに感じられ、しおりを挟んで本を閉じた。
いつもより早めにベッドにもぐり込み、うとうととまどろんでいると
階下から人が上ってくる気配がした
今夜は皆パーティー会場で眠る予定だ
誰か抜け出して戻ってきたのだろうか。
マクスウェルのいる部屋の前で足音は止まった
頭から毛布をかぶってドアが開くのをうかがう
ドアの隙間からのぞいた巨大な影に一瞬息を呑むが
現れたのは赤い服を着た…

「先生…」

「おや――」
―起こしてしまいましたか
これでもサンタのつもりなんですがね。
言いながらベッドの傍らに腰をおろす
アンデルセンの腹は出ていなかったし白い髭は明らかに作り物だった。
「靴下はどこかな?」
マクスウェルはムッとした顔になる
ああ、先生は他の子と同じ様に僕にプレゼントを渡しに来たのだ
「靴下は履くためのものです」
―プレゼントを入れる物じゃありません。
それに僕はプレゼントをもらうようないい子じゃありませんから。
どうやら機嫌を損ねたらしいマクスウェルにアンデルセンは苦笑した
「そんなことはないでしょう」
―夜更かしをせずに皆より早く寝床に着くいい子じゃありませんか

何か欲しいものはありますか?

すると手のひらに収まりそうな小さな頭を傾けて何やら熱心に考えている
みどり色の瞳に剣呑な光がちらりと過ぎる
うんと困らせてやろうという魂胆らしい

「サンタクロースが欲しい」

「…」

これはどう受け取れば良いのだろう
少年はさあよこせと手をのばす

神経質そうな整った顔立ちからは何が読み取れる?


「私で良ければ…?」


言って手を差し出すと白い頬を紅潮させてはにかむように「ありがとう」と呟いた

「本物でなくてすみませんね」

外気にさらされて冷たくなった小さな手を握りながら謝罪の言葉を口にする
多分自分の出した答えは間違ってはいなかったのだろうけれど
マクスウェルが本当に求めていたものとは多分違うから
「いいよ…」

―眼鏡は合ってると思うし

「…」
サンタらしいと言われたわけか。
子供らしく見る所はしっかりと見ているのだなと
微笑ましい気持ちになると同時に
こんな状況の中でさえ
正直に肉親の愛情が欲しいと声に出すことのできない子が悲しかった
「マクスウェル」
―もう眠りなさい
明日あなたが目を覚ますまでこの手を離さないでいるから
そっと布団をかぶせるともう一方の手で幼い額に手をあてて祈りの文句を呟く


翌朝サンタクロースに手を引かれて皆のいる会場へ向かう少年の姿があった




「で?」
執務室の椅子ごとアンデルセンを振り返りながら問うてくる
「今年は何をプレゼントしてくれるんだ?」
―お前は私のものになったはずだが
意地の悪い笑みを浮かべる先には
例年通り赤い服を着たアンデルセンが立っている
「いいえ」
今年は私が頂く番ですから…
「フン」
意地悪そうに笑う目はあの頃のままに
「人に物をねだる時には言う言葉があるんじゃないのか?」
誘う唇は毒のように甘い
「Please…」
執務室の窓に重なり合う二人の影が映った



―翌日
子供達の間でサンタクロースが誰かとキスをしていたという噂が広まったのはここだけの話…







Mamy kissing Santa Claus...(オチでした)