コーヒーブレイク


「胃が痛い」
書類がオブジェのように積み上げられたデスクを前に
マクスウェルはいじけていた。
わけではないのだが、
肩を落とし猫背気味の体勢で書類から目をそらす様は
まあいじけていると言って差し支えないだろう。
執務室にはそんなマクスウェルともう一人、
例の神父アレクサンド・アンデルセンがいた。
何のためにいるかというと、
別にマクスウェルの書類を手伝っているのでも何でもなく
彼は彼自身の膨大な『始末書』を書いているのだった。
ちなみにその始末書は書き上がるとそのままマクスウェルの前に移動する。
「胃が痛いのならコーヒーをブラックで飲むのは止した方がいいですよ」
しごくまっとうな意見なのだが
恨みがましい目でにらまれている。何で…?
「余計なものを入れると眠くなる」
ここ数日あまり寝ていないらしい。
しかしコーヒーの効き目もむなしく
マクスウェルは子供のようにデスクに頭を預けてウダウダし始めた。
「…ちょっと失礼します」
神父は何か思いついたらしく席をはずした。
マクスウェルはウダウダしている。

「マクスウェル」
戻ってきた神父が読んでもマクスウェルは顔を上げようとしない。
「起きているでしょう」
「当たり前だ」
突っ伏したまま返事をするので声がくぐもって聞こえる
「起き上がってくれませんか」
だらりと体の両脇に垂らした腕が動く気配はない。
「…起こしてくれ」

子供か…

とは言わずに椅子の後ろに回り両脇を抱え上げると
来客用のソファーに自分ごと沈み込んだ。
「何でこうなるんだ…」
自然アンデルセンの膝の上に座る形になる。
人の出入りのある執務室でくっつかれたりすると
普段は激怒するマクスウェルだが、
どうやらそんな元気もないらしい。
「どうぞ」
差し出されたカップからは鼻をくすぐる甘い香り
「カフェオレですよ」
「…」
甘い
ミルクの甘みがふわりと広がり疲弊した体が一瞬軽くなったように感じた。
「飲んだら少し仮眠を取ってください」
少し高い位置から降ってくる優しい声が耳に心地いい
「30分したら起こしますから」
その声が聞こえていたのかいなかったのか
そっとカップを受け取り盆に戻すと
アンデルセンはくたりと力の抜けた体を抱きなおした。


甘――――い