―再生―














病室で目が覚めるや否や
『ジェレミアが』と叫んで暴れたらしい。
それほど執着していたのか
我ながら滑稽だ



軍の医療施設にジェレミアが運び込まれた様子は無い。
しっかりものの同僚の姿も見あたらない。
2人が既に死んでいるとは思わなかったが
純血派は壊滅的なダメージを負ったのだと否が応でも思い知らされた。



数日後、特派の薄紫の髪の男が病室に現れて
「あいたい?」
と、あの薄い笑みを浮かべながらのたまった。










エレベーターで下がったのだか上がったのだかした後、ずいぶん歩いた気がする。
潔癖な白い壁の続く病棟の長い回廊
その先に探していた男はいた。

ガラス越しに簡素なパイプベッドにぼんやりと腰掛けている。
だらしなくシャツをはおった、胸元からのぞく金属との接続部位が生々しい。
整髪料できっちりと後ろに流されていた前髪は額にかかっていて、前髪をおろすと少し幼く見えた。
―生きて、いた―
あれがここに存在しているという安堵感にほっと胸を撫で下ろす。
しかしこの状態は、あまりにも不自然だった。

「どうぞ」

うたうようにそう言って、ロイドは戸惑うキューエルを部屋へ通した。
後ろで扉が閉められる。
意を決して2、3歩近づくと靴音に反応して顔を上げた
―こいつは誰だ?―
見たことの無い表情に混乱する。
ガラス玉のような瞳が興味深げに瞬いた。
心臓の音がやけに大きく感じる。
―ここにいるのは一体誰だ―



「ジェレミア」



上擦った声で、救いを求めるように名前を呼んだ。
きょとんとして眉を上げる、そんな表情は見たことが無い。

「…っオレンジ…!!」

苛立って叫ぶ声に一瞬ビクリと体をこわばらせるが意味を理解した様子は無い。



「だれ?」



ひとことずつ区切ったような幼子のような発音で
発した声は俺の知っているあの声と同じなのに

胸倉をつかんで床に引きずり倒す

「お前は誰だっ」

ガクガクと揺さぶりながら問い続ける。 答えなど求めていなかった。
昔のとおりに神経質そうな表情で怒鳴り返してくれればそれで満足なのに。



優秀なくせに、売り言葉に買い言葉で
そうやって言い返すところが子供じみているんだと屁理屈をこねれば
ぐっと言葉を飲み込んで、案外素直に聞くものだと何だか妙に感心した。
それでも次に出てくるのはご丁寧な貴族の嫌味、余裕を装ってにやりと口の端を上げる。
それにまたカチンときて反射的に殴った。
殴ったら殴ったで反応が面白くて
貴族内では手を出すのはルール違反なのか
目を白黒させながら反論してきた。
むこうから手を出すことはめったに無かった




硬質な左半身を感じながら締め上げる。
感情の奔流に押し流されて力の加減などできない

ジェレミアは組み敷かれたまま少し戸惑ったような顔をして、何気ない感じでキューエルの手首を掴んだ
「…っ!!」
万力で締め上げられるような力に骨がきしんだ。
加減が分からずに子供が小動物をつぶしてしまうような、そんな力だった。
瞠目して白い顔を見つめると
白い顔に壮絶な笑みを浮かべて金属の爪先を一閃した。
危害を加えたキューエルを敵と見なし
やわらかい喉の肉を狙って獣のように踊りかかる。
空振りした後いったん間合いを取って
低くかがんだ姿勢から反動をつけて飛び掛る。
しなやかに動く薄い筋肉がシャツの間からのぞく。
探し続けたかつての面影は無かった。

絶望に打ちのめされて懐の銃を抜く



タァン



銃音が狭い部屋にこだましてジェレミアの体を射抜いた瞬間
停止した世界の中で彼がしようのないような笑みを浮かべたような気がした


ドアが開いて白い服の研究者たちがバラバラと入ってくる。
人形のように崩れ落ちたジェレミアを運び出す
その様子を見て狂ったように喚きながらそれに取りすがるキューエルを警備員たちが取り押さえた。
研究者たちが姿を消す。
首筋に刺すような痛みを覚えて意識が遠のいた。 。










オレンジ色の液体の中で
ジェレミアは目を閉じて眠っている。


壁一枚隔てた制御室でコンピュータに向かい続けるロイドにダールトンが問いかけた。
「キューエル卿の銃を取り上げなかっただろう」
「あは、ばれてました?」
キィッと椅子を回転させて向き直った顔に悪びれる様子は全く無い。
悪戯っぽく舌を出すとキツネのように目を細めて笑った。
「殺されなかったのが不思議なくらいだ」
半機械化したジェレミアの防衛本能は一級品だ。
抹殺されかかったキューエルが生きているのは奇跡と言っていいだろう。
人としての記憶はほとんど留めていない。
それどころかまともに喋ることすらできない筈のジェレミアに
キューエルは何かを思い起こさせることができたのだろうか。
ジェレミアが迷わなければ、二閃目で確実にキューエルの首は落ちていただろう。
例えかわしたとしても、拳銃の弾くらいなら装甲部位に当たれば傷も付かない。
避けるのに十分な瞬発能力も備わっている。

「避けなかった…か」

そうとしか考えられない。
あれは何かを感じ取って自らキューエルに殺されようとした。

「運命、ですかねえ」

ウフフと笑ってどうぞ、とロイドはカップを差し出した。
「…」
湯気を立てるコーヒーを受け取ると、片目をつぶって質問にまだ答えていないだろう、と目線で促す。



「キューエル卿をジェレミア卿の横に並べたいなあとか思いません?」



コーヒーを噴出しそうになる。
このろくでもないサイエンティストは…

「麗しいじゃないですか」
―何か悲劇的で、よくないですか?―

この巨大な研究施設もジェレミアもこの男にとっては玩具なのだ。
よしんばキューエル卿が死んでいたとしても表向きにはきれいに取り繕って思い通りの改造を施したのだろう。
やれやれとため息をつく気にもなれずカップを置いた。
「少し見てきてもかまわないか」
「どうぞ〜」
ひらひらと手を振ってまたコンピュータへ向かう。
拾い主は自分だがロイドに預けたのもまた自分なのだ、人のことは言えないなとダールトンは自嘲した。
マジックミラー越しに"修理"を施されるジェレミアを眺める。

ほんの時々見せる過去の面影を


自分もまた求めているのだろうか














ダールトン(拾う)→ロイド(治療もとい再生)
いやんQL生きてますよ←黙レ
せっかく生き返ってもオレンジ天涯孤独じゃ気の毒なので生き返らせてみました。
引導を渡してくれるのがQLだといいな、という妄想(死にませんでしたが)
QLこそコードを引きずってでも黄泉返るべきだと思います。
(あのイタイ子を止めてあげて)
そういえばダールトンもどうなるんだか分からない状況でしたorz